「ぼくはここにいるべきじゃないと思うんだ。」
広い広い海の真ん中を漂う一匹の小さな魚がいいました。
「突然どうしたんだい、坊。」
坊をこれまで育ててくれたタコのおじさんがいいました。
「だってここには、ぼくとおなじ色や形をした魚はいないよ。おじさんだって、ぼくとぜんぜん違うじゃないか。」
「ちがったっていいだろ。たかが色や形じゃないか。」
「たかがじゃないやい。だって隣のフグの家族もみんな同じような見た目だし、エイさんところの親子だってそっくりじゃないか。ぼくがおじさんと全然似てないのはやっぱりおかしいよ。ぼくはここにいるべきじゃないよ。」
「じゃあどこにいるべきだというんだね。」
「分からないけど、ぼくはぼくと同じような家族がいたくさんいる場所にいるべきだと思うな。」
「はっはっは。ばかなこといってないで、おじさんのツボの掃除をてつだってくれよ。」
おじさんはタコつぼの中をふきながらいいました。
「ふんっ。ぼくは本気だよ。今すぐにでも探しにいくよ!」
そういうと坊はくるっとおじさんに背を向けてお泳いでいってしまいました。
「きっとすぐ帰ってくるさ。」
おじさんは小さな声でつぶやきました。
ひろい海の中は、果てしなく広がっています。
「ぼくは絶対に家族をみつけるよ!そしてそこで幸せにくらすんだ!」
そう思うと勇気がわいてきました。
坊がしばらく泳いでいると美しいサンゴの合間に、これはまた美しいピンクときいろの鮮やかな魚たちに出会いました。
「きれいだな。きっと彼らがぼくの家族に違いない。」
「こんにちは。きみたちはぼくの家族かな?」
坊は聞きました。
「違うよ。きみはぼくたちのように美しくないじゃないか。きみがぼくらの家族であるもんか。」
坊はがっかりしてまた泳いでいきました。
しばらくいくときらきらした水面のほうで何やら泡がたっています。
「行ってみよう。」
坊が近づくと、大きな胸びれを持ち、マテ貝のように細長い魚たちが海面からとびだいしています。
「なんてかっこいいんだろう。きっと彼らが僕の家族に違いない。」
「やあ。きみたちはぼくの家族かな?」
坊は聞きました。
「違うよ。きみはぼくたちのように高く海からとびだせるのかい?そんな小さなヒレじゃ無理だろうがね。きみがぼくらの家族であるもんか。」
坊はがっかりりしてまた泳いでいきました。
しばらくいくとうんとたくさんの魚たちが渦をまくようにいっせいに泳いでいます。まるで大きな一匹のさかなのようでした。
「さかなの大群だ。何百といるぞ。きっと彼らがぼくの家族に違いない。」
「ねぇ。きみたちはぼくの家族かな?」
坊は聞きました。
「違うよ。きみはぼくたちのように早く泳げるのかい?そんななりじゃ無理だろうね。きみがぼくらの家族であるもんか。」
坊はがっかりしてまた泳ぎだしました。
「もうぼくの家族はいないのかもしれない・・・。」
ぼうは泣きそうになりました。
そのときです。赤みがかっていて、しっぽがすこし黄色い魚たちがおよいでいました。
「彼らはなんだか、ぼくににてる気がするな。」
「きみたちはぼくの家族かな?」
坊は聞きました。
すると群れのなかの一匹がいいました。
「きみは……ぼくたちの仲間だろうね。」
「ほんとう?じゃあぼくはきみたちの家族だね!ぼくも家族にいれておくれよ!」
魚たちは顔を見合わせて、申し訳なさそうにいいました。
「きみは、ぼくたちと同じ種類の魚だろうけれど、家族にはなれないよ。だって、ぼくたちは生まれてからずっと一緒にいるからね。急に知らない魚を家族にはできないよ。」
そういって魚たちはどこかへおよいでいってしました。
「ぼくはどうしたらいいんだろう…ぼくはもう行く場所がないや。」
坊はえんえん泣きました。
するとおじさんの顔がうかびました。
「おじさんに会いたいよ。」
ぼうはひっしで泳ぎました。おなかがすいていることも忘れるほど泳ぎました。
おじさんのタコつぼがみえました。
「おじさん…ごめんなさい。おこってるよね?」
坊が弱々しく声をかけました。
「おかえり、坊。」
おじさんがタコつぼから出てきてにこりとほほえみました。
坊はなみだでおじさんの顔がにじみました。
「こっちへおいで、ご飯をたべよう。」
「うん!」
坊もほほえみました。
終わり
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